Koji Nakamura New Album “Epitaph”

2019.06.26 Release
KSCL-3149 ¥2,600+Tax

  1. Emo
  2. Lotus
  3. Wonder feat. Ryugo Ishida&NENE
  4. Reaction Curve #2
  5. Open Your Eyes
  6. Influence
  7. Hood
  8. Sense
  9. Being
  10. 1977
  11. Night
  12. No Face feat. abelest

2017年4月よりスタートした”Epitaph”プロジェクトは、CDリリースやダウンロード販売を想定せず、ストリーミングのみをターゲットとし、プレイリスト(≒アルバム)は、ナカコーの新作でありながら、彼の気分でそこに収められている曲が変わり、バージョンが変わり、曲順すら変わっていた。1ヶ月に1度2~3曲アップロードされており、DAW+アクセスモデル時代の新しい表現のトライだった。

プロジェクトスタートより約2年。そして前作「Masterpeace」より約5年。6月26日に「Epitaph」を遂にCD化する。

プロデューサーに若きサウンドクリエーターKazumichi Komatsu (madegg)を迎え、作詞にシンガーソングライターのArita shohei、「Contains Samples from SUPERCAR」7インチシングルも記憶に新しい、ゆるふわギャングからRyugo Ishada&NENE。アーティストとして活動するACO、トラック・メイカー・ラッパー・映像作家など多岐に渡って活動しているabelest、と言った様々なアーティストが参加。アートワークは木村豊(Central67)が担当した。

【Liner Notes】

ナカコーことKoji Nakamuraのニュー・アルバム『Epitaph』は、前作『Masterpeace』以来約5年ぶりの作品だが、2017年4月よりスタートしたストリーミング配信サービス限定の同名プレイリストで発表されてきた楽曲をまとめたものだ。当時のナカコーの公式サイトの文言によれば、<CDリリースやダウンロード販売を想定せず、ストリーミングのみをターゲットとすれば、アーティストは作品の完成をゴールとする必要がない。だから”Epitaph”というプレイリスト(≒アルバム)は、ナカコーの新作でありながら、彼の気分でそこに収められている曲が変わり、バージョンが変わり、曲順すら変わってゆく。DAW+アクセスモデル時代の新しい表現のトライ>というコンセプトを持ってスタートした。その後頻繁に中身を更新しながら続いていたプレイリスト”Epitaph”は、「ある程度曲が出揃い、作り込みもできて、ひとつのまとまりの形が見えてきた」(今回の取材でのナカコーの発言。以下同)ので、そこに細かい修正を施し、ミックスをし直して、益子樹によるマスタリングを経てアルバム『Epitaph』として完成したわけだ。

プレイリスト”Epitaph”は、いくつかのテーマを持って楽曲の制作が行われていた。その中でも重要なものは「自分の聴いたことのない、新しい音楽」というものだった。

「『Masterpeace』を作ってしばらく、あんまり音楽を聴かなかった。聴きたいものが見つからない。見つかったと思ったら、音楽じゃなかったりする。おお!ってなるような新しい音楽がない。じゃあ自分で作っちゃえっていうのが思いとしてはあったかな」

ナカコーの言う「新しい音楽」とは?

「過去の引用がされてない音楽。聴いたことないような構成だったり、聴いたことないような音像だったり、聴いたことないような世界観だったり。スリーコードのロックにしてもある程度過去の引用だし、ダンス・ビートも昔からある。打ち込みと生演奏の融合も昔からみんながやってる課題だし。いつの時代も、それをもう一回再定義する人たちが出てきてるし、焼き直してる人もいる。そういうのは今やりたくなかった。昔あるものをまた持ってきて、ちょっと組み替えたぐらいのポップ・ミュージックは、すごく古く感じちゃうというか」

もちろんどんなに新しく見える芸術作品も様々な過去の集積で成り立っている。大事なのはそれらをお決まりのパターンや公式に囚われることなく、新しい視点でもって融合・再構成していくことだ。ナカコーの場合、その大きなヒントになったのは京都を拠点に活動しているトラックメイカーKazumichi Komatsu(madegg)の存在だ。プロデュース、プログラミング、エディットまで手がけ、本作のキーマンとなっている。ナカコーとオンラインでデータをやりとりしながら作り上げていった。

「彼は自分にないアイディアをどんどん出してくれる。ある種の突然変異的な、いきなり今まであった時代をバッサリ違うほうに切り替えるような力が、彼とか、彼と同じ新しい感覚を持った若い人たちにはある」

ナカコーはライヴの現場で出会う若手アーティストや、日々ネット上にアップされる無名アーティストたちの音楽を聴きながら、そんな新しい感覚の台頭を実感しているようだ。madeggも、本作の歌詞を担当したArita shoheiや、abelestといった人たちもそうして出会った。しかも3人はそれぞれ「同じカルチャー、同じ世代を共有している」という実感があったという。

「madeggくんを最初に聴いた時に、今までと全然違うものが来たと思った。僕が聴いたとき彼は20歳とかだったけど、ハタチでこんなもんができる人なんてありえないと思った。でもその感覚が今の人にはある。自分がハタチだった時は、過去の引用をどれだけ現在の日本に持ち込むか、だったんだけど、もうその時代が終わって。リアルタイムで過去のものと今のものとの選別がぱっきし分かれてて。今の表現、今やるべき音楽っていうのをちゃんと自覚して堂々とやってるっていう、その差はすごくでかい」

ナカコーにとって、そうした新しい感覚や手法を取り入れて、常にアップデートしていくような、だが頭でっかちな実験音楽ではない、自分なりのポップ・ミュージックを作ることが大事だった。「◯◯のようだ」とか「◯◯みたい」と言われない、過去へのオマージュではない音楽。だが同時に「ある種のわかりやすさと、ある種の寛容さと、ある種の平等性」も兼ね備えた新しいポップ・ミュージックである。

「自分はバンド上がりだから、楽器を持つ、演奏するっていうとこからスタートして、作曲をする。ちょい古いんだよね、発想が。でもmadeggくんの世代が作るといきなりコンピュータで作る。作曲する、っていう感覚がたぶん自分と違うと思うし、できあがった曲に対するアプローチも絶対的に違う。その感覚はある。どっちがいいとか悪いとかじゃなくて、それらが今両立して存在してるから、合わさったら面白いじゃんと思う」

ここ最近のナカコーの活動は、フルカワミキや田渕ひさ子、牛尾憲輔とのLAMA、エクスペリメンタルなアンビエント・プロジェクトNYANTORA、ナスノミツルや中村達也と組んだインプロヴィゼーション主体のバンドMUGAMICHILL、さまざまな他流試合的セッション/ライヴ、自主レーベル/ショップMeltintoの運営、CM音楽制作や劇伴音楽制作など実に多岐に渡る。そんな中、自分の表現の核を、若いアーティストたちの力を借りながら、2年間かけて磨き続けてきた。その結実であり中間報告が『Epitaph』なのである。

「一番嬉しかったのは、Aritaくんが出来上がったのを2人で聴いてる時『音と、言葉でしたね』って。『純粋にそこだけに立ち返ってんのが、突破口になりますね、新しい音楽の』って言ってくれたのが一番嬉しくて。言ってみれば確かに、そこに音があって、その上に言葉があって、そして終わるっていう。もう一回そこに立ち戻るっていうのがいいなって思った」

ちなみにストリーミングで聞く”Epitaph”と、しっかりとCD盤で聴く『Epitaph』は、聴き応えがまるで違う。これは聞き流すものではなく、真正面から向き合って聴くべき作品なのだ。解釈は、人それぞれである。

2019年5月27日 小野島 大